招待状

 カニはチョキしか出せないという主張は理解しかねる。持てる指すべてを開く行為をパーと定義するなら、カニのハサミが開いた状態もまたパーと考えなければフェアではないのではないか。しかし、持てる指のうち2本を開く行為をチョキと定義するならば、カニのパーはチョキとも言えるわけで、つまりカニはルールに反することなくチョキとパーを重ね合わせた手を出すことができる。加えてすべての指を閉じる行為をグーと定義するならば、カニの手がハサミを閉じたときそれはやはりグーと解釈すべきであり、総合するとカニはグーチョキパーすべての手を出すことができる完全生物なのである。ただし人間が用いているルールでは「手の重ね合わせ」を想定しておらず、なんらかの定義拡張、または特別な解釈が必要となる。カニ同士でじゃんけんをする際には当然そうした課題は解決済みであろう。カニはチョキしか出せないなどと誤った認識で侮っている場合ではない。ことじゃんけんの自由度においてはカニの方が進んでいるのだ。人間はいつまで素朴なじゃんけんに甘んじているのか。一刻も早く同時多重手による勝敗解釈を整備し、新たなるじゃんけんの高みに登ってほしい。カニたちは静かにその日がくるのを待っている。