仕方がないので食べました

 私は掃除が億劫でついついゴミを床に放置する、いわゆる汚部屋にしてしまう人間です。
 コンビニ中心の生活をしているとビニール袋やカップ麺の殻、使わなかった割り箸なんかがどんどん増えていくのが良くないんですよね~。それでそのうち面倒になって、そのままずるずるとゴミ山が積み上がっちゃうわけです。普段はそうならないようこまめに片付けるようにしているんですが、油断するとすぐに汚部屋ができてしまうものぐさな私^^;
 ずいぶん前のことですが、家を引っ越した際にどうしてもダンボールやクッション用の資材が溜まってしまって、そのままついつい生活ゴミまで溜めてしまいました。
 ダメだな~、なんて思いながら週末に反省してゴミを片付けていたら、なんとゴミの下からカラスの死体が出てきたんです。ネズミや昆虫なら部屋から湧いてもおかしくないですが、カラスが家の中にいたなんて、いくら田舎とはいえさすがに考えにくくないですか?
 外から入ってきたのか、なにかのゴミにうっかり入っていたのか……どれも原因が思い浮かばないまま、面倒くさくなってこっそり燃えないゴミに出して捨てました(こういう雑な性格がゴミ屋敷を作っちゃうんですよねきっと)。

 それから1年くらい経って、またついゴミを溜めてしまったことがあったんです。カラスのことなんかすっかり忘れていた私はたまたまやる気のある日にゴミを片付けていたんですが、なんと今度はイタチの死体が。なんで!? と混乱してしまってさすがにきちんと原因を調べたんですが、それでもさっぱり分かりません。管理会社さんに聞いたところ部屋にイタチが出たなんて苦情は今まで来たことないそうです。
 これは誰かのいたずらか……? そう思った私は、今度は意図的にゴミを溜めるようにしました。目立たないようにこっそり監視カメラを設置して1週間くらい放置してみたら、私が仕事に行っている間に誰かがこっそり動物の死体を隠しているのが見つかるんじゃないか、そう思ったんです。
 結果はさ~っぱり。監視カメラにはなんにも映ってないし、それでいてゴミ山の下にはヤマアラシの死体が転がっていたんです。私、頭がおかしくなっちゃうんじゃないかと思いました。

 それからはずっと実験の繰り返しです。誰だって気になりますもんね。私はゴミ山を作っては掃除をして、どんな動物の死体が出てくるのか、1週間を1セットとして2ヶ月くらい観察をしました。
 分かったことはこうです。まずゴミ山の大きさと死体として出てくる動物の大きさは比例しているようでした。確認した限りでの最小はハムスター、最大は子供サイズのイルカで、いずれも死体の状態。発見時はどれも腐敗していませんが、発見後は常識的な速度と様子で腐乱していきます。動物の種類は哺乳類であること以外てんで法則性が見つかりません。また、いちど動物の死体が出現したゴミ山には二度と同じ現象は発生せず、一度片付けた上であらたにゴミ山を溜める必要がありました。
 私は次第に、このゴミ山が動物の死体を召喚しているんじゃないか、と思うようになりました。

 動物の死体召喚プロセスを絶対に見届けたい。そう思った私は最後にある大きな実験を行うことにしました。私の体がすっぽりうまるくらいゴミ山を大きくして、その中に私が1週間潜みながら、動物の死体がどうやって生まれるのかをこの目で観察するという実験です。
 体がすっぽり埋まるぐらいのゴミ山というのは想像以上にたくさんのゴミを用意する必要があります。たとえ私のような身長160cmの成人男性であってもかなりの量を積まないと、足先や肩なんかがうっかり外に出てしまうのです。積んであるゴミって別に固定してあるわけじゃないからちょっとした動きですぐ崩れるんですよね。丸めたティッシュの転がりやすさと言ったら。
 動物を召喚しているという仮説を信じるのであれば、その召喚をするためのゴミ山に穴を開けてしまうのはおそらく良くありません。それは儀式の”破れ”となってしまうでしょう。私の体がきちんと埋まるまで、できる限りゴミを用意してから部屋中に撒いていきました。
 そして食料と水、避難生活用の排便袋を1週間分用意して、私はゴミ山の中でじっと暮らしていきました。非常につらい生活でしたが、これ以上動物の死体に出てこられては本当に私の頭がおかしくなってしまいます。私が正常な人間として暮らしていくための確認として、これは絶対にやらなければならない実験でした。監視カメラなんかには任せるわけに行きません。肉眼で確認しなければなんの意味もありません。みなさんもそう思いますよね?
 私はできる限り眠らないようにゴミ山の中を観察し続けました。ゴミ山から体を出さないように、ゴミ山を崩してしまわないように、慎重に慎重に探検をしていきました。しかしどれだけ待っても動物の死骸は現れませんでした。過去の実験では1週間経って動物の死体が出てこなかったことはありません。1週間経過したあと私は念のためもう3日ほどゴミ山内での生活を続けました。水と食料はある程度残していたのですが排泄物はどうしようもなく、あきらめて手近なビニール袋を利用しました。都合10日間。結局私はいちども動物の死体を見つけることなくゴミ山を出ることになりました。非常に残念でしたが、排泄物の匂いと体力に限界を迎えていました。
 ゴミをかき分けてそっと外に出たとき、そこには巨人の死体が居間いっぱいに蹲っていました。

 私は自分がバカだったことに気づきました。そりゃそうですよね。つまり、ゴミ山を結界として捉えるならば観測者である私とゴミ山の関係は外と中ではなく、”私という観測者がいる方”と”そうでない方”に分けられるわけです。なので私がゴミ山のなかにいるのであれば動物の死体が出る側はすなわち”観測者=私がいない方”に決まっています。そして召喚できる動物の死体は”観測者がいない方”の大きさに比例するわけですから、結果的にこうして巨人が出てきたということです。こんなことにも思い至らないなんて、私ってなんてバカなんでしょう。
 ひとまず入浴を終えた今、私は非常に困っています。巨人の死体の処理方法って自治体に問い合わせて教えてもらえるでしょうか。粗大ごみ? いやそもそも部屋から出すためには小分けにしないといけないし、手間も大変。特殊清掃の業者で良さそうなところがあれば、誰か教えてください。


机局観戦記


 私は趣味でこっくりさんをやってるんです。いやいや、趣味です。全然強くないですよ。未だにアマの級位者ですから(笑)
 そんなにわか者な私ですけど、尾苦里5段の最近の活躍は本当に、長年のこっくりファンとして胸が熱くなりました。め囲いは現代こっくりではAIによって1段劣ると言われている戦法なのに、それであそこまで相手を圧倒できるのは素晴らしい。プロ入りしてからパッとしなかった時間の長さが、むしろ尾苦里5段の実力を熟成させたと言っても良いでしょう。
 実力があまり振るわなかったころから応援していた身としてはただただ嬉しい。6段になれば降霊が完成し取り殺されてしまうわけですから、死者まであと少しです。来月の死机王戦、会社を休んで観戦するつもりですよ(笑)


―― “意気込みはいかがですか”

忌島「尾苦里5段は非常に粘り強い、歴戦の机士です。過去に勝った机局でも楽に勝てたという記憶はありません。文字通り死ぬ気でぶつかるしかないでしょう」

―― “得意戦法であるぬね弾きはめ囲いとの相性が悪いのではないかと心配するファンもおりますが”

忌島「おっしゃる通り、1字損ぬね弾きはめ囲いと相性的にあまり良い戦法ではありません。当日の戦法については1文字1文字ゼロから見直して、あらゆる角度から再検討をするつもりです。とはいえ、この歴史的な1局にふさわしい、堂々としたこっくりにしたいとも思っています。つまらない誘導戦法はとりたくありません」

――”本日はお忙しいところ誠にありがとうございました”

忌島「ありがとうございました」


【△△新聞 机戦速報】

 XX月〇〇日 午前9時からKKR会館3階にて行われました死机王戦ですが、午後4時25分、223字の熱戦の末に尾苦里5段が投了し、忌島5段の死となりました。勝負後の振り返りでは尾苦里5段が涙を見せるなど、本戦の真剣さがうかがえる白熱した1戦でした。
 午後5時からは忌島死者へのインタビューと表彰、こっくりさんによる締め殺しが行われる予定です。